酒場街飲み路地裏探索

街コラム  第1回
TOPORIGINAL 東京オリジナル飲料
今ではお馴染みの酒 実はメイドイン下町
焼酎をアレンジしたオリジナル飲料は、東京名物の新基準
酎ハイ、サワー、ホッピー…。全国どこの居酒屋でも出てくるほど、今ではすっかりお馴染みになったこれらの焼酎スタイルは、実はすべて東京の下町で誕生した、東京オリジナル飲料です。下町を中心にひっそりと、しかし着実に成熟してきた独自性の強い酒文化は、もはや東京名物の新基準とも言えますが、地酒や街興しカクテルの類とは違います。ごく身近な焼酎をアレンジしたものであり、下町の愛酒家と居酒屋によって、驚くべき進化を遂げてきました。
焼酎をアレンジしたオリジナル飲料は、東京名物の新基準
東京オリジナル飲料 発祥の背景
その歴史は、戦前にまで遡ります。ビールはまだ高嶺の花だった当時、庶民の酒といえば国産焼酎。ところが蒸留技術は発展途上であり、今では考えられない粗悪品が流通する時代でした。そうした酒をもっとおいしく飲めないのだろうか?
そんな江戸流の粋なチャレンジ精神と発想力が結集し誕生したのが、東京オリジナル飲料なのです。その成り立ちや出現時期には諸説が入り乱れますが、共通点はもちろん「安酒をおいしく飲む」という一点に違いありません。
下町で人気を博した酎ハイ、サワー、そしてホッピー
瞬く間に下町を席捲した酎ハイ
ある者は焼酎にブドウのエキスやウメ、果てはミルクまで加えることで飲みやすくする道を模索し、またある者はウィスキーを真似、色や香りを付けたりする手法を編み出しました。味に奥行きを加える為に開発されたき釈用清涼飲料水が誕生し、試行錯誤が続きながら、一見風変わりと思える酒文化が生まれていきました。それと同時に、焼酎を割るものも少しずつ、しかし着実に進化していきました。そして下町酒場の名脇役、業務用炭酸が生まれます。焼酎にエキスを入れて炭酸で割ることで飲みやすくした焼酎ハイボール(略して酎ハイ)の原型です。酎ハイは、軽快な飲み口と手頃な価格の相乗効果で、瞬く間に下町を席捲していきました。
瞬く間に下町を席捲した酎ハイ
割り用飲料という新ジャンルでサワーは激戦区に
その後の発展系として、焼酎割り用飲料というジャンルも出現しました。これは、エキスと炭酸を合わせたようなもので、サワーの元祖とも言われる博水社ハイサワーや、ホッピーはその代表例と言えます。博水社ハイサワーの人気に注目した中小飲料メーカーや大手チェーン店の力添えで、全国に普及し、今では数社が競う激戦区になっている。
下町酒場の定番商品 ホッピー
前述したようにウィスキーを真似て独自の折衷文化が広がった下町では、高価で手が届かなかった舶来酒・ビールも当然、そのターゲットとなりました。吟味を尽くして開発されたのが、ビアテイスト飲料"ホッピー"です。ノンアルコールビールとして発売されたホッピーは甲類焼酎で割ると相性は抜群で、憧れのビールに近い味が実現。酒を嗜む愛好家に受け入れられ、下町酒場の定番商品となりました。その他、焼酎に酒を加える破天荒なスタイルや、清涼飲料水を加えてまろやかにするタイプまで種類は無限。
まさに店の数だけ種類が存在すると言っても過言ではないのです。
全国に拡散する誇り高き東京オリジナル飲料
門外不出の下町レシピがひっそりと成熟した理由
これら下町独自の酒文化は、今でこそ全国に拡散していますが、長きに渡って注目されなかった大きな理由に、居酒屋(店主)の秘密主義があります。ウィスキーやビールを真似た酒を提供する一方、「ほかの店で真似されては困る」との判断から、昔はお客さんにどういったものが入っているのかを公開していませんでした。それと同時に、お客さんが店でレシピを聞くのはマナー違反とされていました。また、話題性に富むB級グルメの影に隠れ、いわゆる脇役である大衆酒場の酒にまでは目が行き届かなかったというメディア側の油断もあったでしょう。そうした様々な要因に守られて、墨田区や大田区といった下町の工場エリアでは、独自の酒文化が生まれ、ひっそりと成熟し、ようやくいま注目を浴び始めたのです。
下町スタイルの飲み方・提供法に先人のアイデアが
東京オリジナル飲料は、その味わいに留まらず、飲み方や提供のされ方などにも個性が光ります。先ずは焼酎と業務用炭酸を別々に提供し、お客さんが自分でグラスに注ぐスタイル。この一見ムダにも思える提供法には、ある必然性が込められています。たとえば焼酎の量を証すことは「ウチはこれだけの量の焼酎が入ってます!」という自信の現れであり、また炭酸を別にすることには、注ぐ量をお客さん自身が濃度をコントロールできるというメリットが生まれます。また、注ぎ終えた瓶を目の前に並べれば「いま自分はどれくらい飲んだのか」というバロメーターにもなるという、まさに先人のアイデアが詰まった工夫と言えるでしょう。
誇り高き飲み物 東京オリジナル飲料
当初は「蒸留技術の未熟さをカバーする」または「嗜好品の代用」という位置付けで生まれた東京オリジナル飲料。しかし今では様々な賞味法で甲類焼酎を楽しめるグッズと化し、下町だけでなく全国の酒場の必須アイテムと昇華しています。メイドイン下町の東京オリジナル飲料は、東京の居酒屋文化全体を象徴する誇り高き飲み物なのです。