酒場街飲み路地裏探索

お店紹介ファイル
TOPお店紹介ファイルNo.005 上野のコリアンタウンにある、日本にハラミを広めた焼肉屋
お酒が好きな人ならば、誰しも一軒や二軒くらいは人を連れてきて自慢したい行きつけのお店、あるいはたまにしか行かないけれど思い出が詰まったお店、なんていうのを持っているもの。

インターネット上に数多ある匿名投稿の飲食店評価サイトから探すよりも、友人・知人にそんなお店を紹介してもらった方が、本当にいい店と高確率で出会え、楽しい時間を過ごせるのではないだろうか。

ということで、そんなお店を紹介していただき、どんどん応援していただこうというのがこの連載の趣旨である。たぶん‥。
初めて足を踏み入れる上野のコリアンタウンで昼間から焼肉を食べる
今回訪れるのは、上野の御徒町駅から昭和通りを越えたあたりのコリアンタウンにある「東京苑」という焼肉屋だ。その店はちょっとした海外旅行気分に浸らせてくれるような濃い雰囲気の路地裏にあり、一人だったら絶対に立ち入ることはないエリアにあった。

そんなお店で待ち合わせをしているのは、鉄人社という出版社で編集をやっているキンさんである。キンさんは知り合いが出した本の編集をやっており、その縁で何度か挨拶程度の会話をして、SNS上で一応つながってはいるけれど、ほとんど会話らしい会話をしたことがないという、他人以上友人未満みたいな浅い関係だ。
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
後ろからジャッキーチェンが駆け抜けていきそうな路地裏にある東京苑。
玉置:「どうも、ご無沙汰しております」

キン:「こうやってちゃんと一緒に飲むのは初めてですよね」

玉置:「ちゃんとというか、前にイベント会場とかで、トータル5秒くらい話しただけですから」

キン:「まあどうぞ座ってください」

玉置:「ありがとうございます。ええと、キン…ナントカさん」

キン:「雑!」

玉置:「すみません、SNS上で表示される名前、あれ覚えられなくて。あのカタカナ文字の並び」

キン:「キン マサタカ!」

玉置:「え、キンタ……なんでしたっけ?」

キン:「キン マサタカです!よくキンタマサカサとかいわれますけど!」

玉置:「キンマタ……うーん、もうアカサカサカスでいいですか?」

キン:「タマキさん、雑!」

玉置:「ははは、タマオキです」

なかなか雑なスタートである。なんだこの会話。ちなみにキンさんと玉置、二人合わせてキンタマオキだなと思ったが、それは昼間だし、飲食店だし、アホすぎるし、口に出しては言わなかった。
玉置:「今日は午後1時集合という昼飲みですけど、この時間から飲むことは多いんですか?」

キン:「よく飲みますよ。もともと広告営業の仕事をやっていたんですけれど、うちは小さい会社なので相手も大きいところではなく、名物社長がやっているような中小企業が多い。そういうところの打ち合わせは昼から飲む場合が多いですね。業務として」

玉置:「じゃあ今日もそれでいきましょう。業務の一環ということで」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
本の宣伝でも入れておけば、一応業務っていうことになりますかね。
キン:「ここ昼間に来るときは、だいたいマンプクっていうランチを頼むんですけど、それでいいですか?」

玉置:「ランチで昼酒っていいですね。お任せします」

キン:「ランチに海苔とナムルとスープがついてくるんで、最初は飲みながらそれをつまんで、そしてご飯を食べると。もちろん混んでいるときに長っ尻はしないですけど、一時過ぎとか二時くらいに来るとそんな感じですね。ここで昼飯食べながらちょっと呑んで、次の店に行くっていうのが常です」

玉置:「昼間からハシゴ酒だ」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
昼飲みならランチをツマミにするのがおすすめだそうです。
玉置:「このあたりって、いわゆるコリアンタウンなんですか?」

キン:「そうです。ここら辺は変わった食材の店もたくさんあって、キムチとか豚足とか安いですよ」

玉置:「へー。アメ横あたりなら何度も来ていますけど、昭和通りを越えたこっちのエリアは初めてです。上野にコリアンタウンがあるっていうのはマンガの知識で知っていたんですが、実際にどこにあるのか知らなくて。なかなかこの店には行き着かないですよ」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
とりあえずカンパーイ!
キン:「大学の恩師がここに連れてきてくれてから、ずっと通っている店なんです。その人は日本人でスペイン語の先生なんだけど、授業にでなくても焼肉の会にきたら単位をくれるっていう先生で、定期的に焼肉会をやっていたんですよ」

玉置:「それはいい先生だ。日本人で焼肉会って、スペイン関係ないけど」

キン:「肉をひっくり返すのは一回までとか、焦がしたら単位くれないとか、いろいろ厳しいルールがありましたね」

玉置:「社会勉強は大事ですね」

キン:「この店はその頃からなにも変わらないですね。悠久の時が流れている。今の店主で三代目なんですけど、先代は完全に日本人みたいな顔なのにマイケルさんって呼ばれていて、もう金ぴかの指輪を全部の指にしている、いかにもソッチ系の人風の阪神ファン!」

玉置:「要素多いなー」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
二階は座敷席になっている。キンさんは店の冷房が壊れた夏に、ここで全員水着の宴会をしたことがあるそうだ。
初めて食べる「カキ刺し」に驚く
玉置:「ランチ以外のオススメは何ですか?」

キン:「今の時期ならカキ刺しです!」

玉置:「カキ刺し!……ってなんですか?」

キン:「まあちょっとみていただければわかります。僕もここで初めて食べたんですけれど、おいしいんですよ!」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
これが登場したカキ刺し。
玉置:「おおお。味がぜんぜん想像できない。まあ食べてみろっていうやつですね」

キン:「ご飯と合う感じではなく、酒と合う感じ」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
質の良いカキが入った時にしか提供されないメニューだそうです。
玉置:「これは、うまいっすね!」

キン:「めちゃくちゃうまいでしょ!」

玉置:「うまいっす。レモンで食べるより味が複雑ですね。これは韓国の伝統的なコチュジャン的なものですか?」

店主:「酢醤油です」

玉置:「全然違った!酢醤油と唐辛子の組み合わせなのか!」

キン:「この大きさが悩ましくて、一口でいけるんだけれど、一口じゃなくてもいい。もったいない感があるけれど、これを一口でいくと贅沢な感じがして…うまいなぁ。すっごい贅沢。僕も最初びっくりしました。連れてきた先生が『おいしいから食べてごらん』ってしたり顔して」

玉置:「唐辛子でカキの甘さが引き立ちますね。確かにこれは人に自慢したい!今度、きっと誰か連れてきて自慢します」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
ナムルは全部混ぜるのがこの店の流儀だそうですよ。
日本におけるハラミ発祥の店
店主:「はい、ランチのカルビです」

玉置:「おお、肉だ!さあ焼きましょう!」

キン:「まだです!網が熱くなってから!僕は大学の先生の薫陶を受けているので、肉の焼き方は絶対7対3です!」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
焦らずに網が熱くなるのを待つ。
玉置:「さすが焼肉で単位をとった男!」

キン:「まあ正解はないんですけどね。大体生焼けでたべちゃうし。我慢できなくて」

玉置:「人にとられちゃいますからね」
玉置:「うまーい!たまにちゃんとした肉を食べるのは大事ですね」

キン:「大事!元気になりますよ。ほら、いい色だな~」

玉置:「お酒とも合いますけど、ご飯とも最高。僕は肉にタレをつけてから、ご飯にワンバウンドさせてから食べるんですよ。タレと肉汁で汚れたご飯がうまい!」

キン:「僕はさせない派ですね。汚さない」

玉置:「えー、なんか残念です。ちょっと心の距離ができました」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
焼肉は必ずライスにワンバウンドさせる派!
キン:「でも僕の友達で秋田出身の男がいて、ご飯にすごくうるさいんですよ。そいつは焼肉にいくとご飯にワンバウンドさせつづけて、ご飯を食べない。最後、肉を食べ終わった後に、ご飯だけ食べる。染みたタレだけで」

玉置:「素晴らしい。その人は友達になれるかも。タレの染み込んだご飯が好きなので、ワンバウンドだけでなく、ツーバウンドでもいいです。あるいは肉をタレ、ご飯、タレ、ご飯と、ダブルドリブルさせてから食べてもいいくらいです」

キン:「それはファウルですね。ところでこの店のイチオシはハラミで、日本で初めてハラミを雑誌などに紹介した店だと言われています」

玉置:「おお、日本のハラミ発祥の店!ぜひ頼みましょう」
玉置:「うまい!」

キン:「でしょう!」

玉置:「うますぎてホッペがサガリそう!」

キン:「……もう酔ってます?」

玉置:「いや、シラフでもだいたいこうです」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
米にも合うが、ビールにも合う!
シイタケやリストラなどの牛肉以外も実はうまい
キン:「あとおすすめは、ここのシイタケが好きなんです」

玉置:「え、シイタケ?」

キン:「いや、ここの食べたらうまくって」

玉置:「シイタケかあ。シイタケが500円っていうのが高いんだか安いんだかわかんないですねえ」

キン:「いやいや、シイタケだけでお腹いっぱいになっちゃうんです。もうシイタケだけでいいんじゃないかなって思っちゃうシイタケ」

玉置:「それはそれで困りますが、じゃあ菜食主義でも焼肉屋にこれますね」

キン:「そう!ここはサラダとかも美味しいんですよ。次の日は電車で座れなくなる辛い青唐サラダとかどうですか?」

玉置:「ええと、シイタケにしましょうか」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
そしてやってきたシイタケがこちら。
玉置:「おお、たしかにお腹いっぱいになりそうなシイタケですね」

キン:「想像していた味とたぶん違いますよ。僕、シイタケをすごい好きかと言われると、そういうことは全然ないんですけど、ここのは好きなんです」

玉置:「大きすぎて焼き加減がわからない!」

キン:「じゃあこれ、私色にしていいですか。まず焼いていると中から水が出てくるんですよ。この汗をかかせたあとに、汗を乾かす。まあ正解はないんですけど。これにタレをべちゃべちゃ付けて食べるとうまい!」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
箸でつまむとシイタケ汁が溢れてくる!
玉置:「予想よりすごい!もうなに食べているかわかんないですね!シイタケってうまいですね!」

キン:「これ目隠しして肉だよっていわれたら、肉かなって思うんじゃないですか」

玉置:「うーん、肉よりも貝っぽいかな。ミル貝を食べているみたい」

キン:「それわかんないです」

玉置:「なんだか寿司が食べたくなってきました。ところでキンさんは、ずっと鉄人社ですか?」

キン:「はい。僕、二浪二留なんで26歳で入ったんです。26歳って普通新卒で入社できないんですけど、なぜか受かったんですよ。2月か3月だったんですけれど、電話で内定の連絡をもらって、じゃあさっそく4月からきてねって。でもこの時期の募集だと普通来春卒業じゃないですか。だから僕まだ三年生で、4月はまだ学生なんです」

玉置:「まあそう思いますよね」

キン:「どうも会社が間違えて募集要項を出していたみたいで……」

玉置:「うわぁ」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
そんなキンさんが追加で頼んだのは「リストラ」というメニュー。
キン:「今度の4月は四年生だからまだいけないですけどっていったら、電話の向こうでバタバタバタってして、どうするどうするってなって、じゃあなかったことでって切られそうになって……」

玉置:「えーーーー!」

キン:「だから『まってー!』って大声で叫んで。でも『ごめんごめん、ガチャン』って切られて。まあ後日談なんですけど、会社側はあいつ三年生だったぜ、あっはっはってなったみたいです」

玉置:「笑えませんよ!」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
リストラは鶏の首肉、いわゆるセセリだそうです。
キン:「でも入れてくださいって絶叫していたから、だったらとりあえずバイトとして入れちゃえば?ってなって、そのあと電話がきて、やっぱり4月からバイトとしてきてねって」

玉置:「よかったー。でも、それで最終的に採用してもらえなかったら笑えますね。ははは」

キン:「ははは。もうびっくりしますよ!」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
弾力があってうまい。あっさりしているけれど味わいがある。
そしてどうでもいい話が続いていく
玉置:「さていい感じによってきました。お酒は家でも飲みます?」

キン:「昨日も二時まで飲んでましたよ。でも最近はちょっと太りすぎちゃって、うちの両親が心配して、クリスマスに『ライザップに入れてあげるよ!』っていいだして」

玉置:「あの何十万もすると評判の!」

キン:「うちの両親なんて年金暮らしなのに。そんな出費をさせるのは悪いから自分でジムいくよって断って、ちょうど昨日入会して夜10時くらいから走ってました。エッヘン」

玉置:「でもそのあと飲んでんでしょ?」

キン:「11時から2時まで一人でね」

玉置:「ダメじゃないですか」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
自分の家のようにくつろぐキンさん。
キン:「いい汗かいたーって家で飲もうとしたら、嫁から『いきなり帳消しにするの!』っていわれました」

玉置:「そりゃいうでしょう。いわせてあげてください。」

キン:「だから今後は体に気を付けて、ノンアルコールのビール風飲料にしようと」

玉置:「お、我慢するんですね」

キン:「そう、それに焼酎を入れてね」

玉置:「あー」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
お酒が悪いのではなく、飲み過ぎる人間が悪いのです。
キン:「タマキさんは酒を飲んでの失敗談ってなにかあります?」

玉置:「僕はベロベロになる前に寝ちゃう。頭痛くなって。とりあえず寝ちゃう」

キン:「僕はありがちなんですけれど、だいたい漏らしますね」

玉置:「わぁ。ありがちなんですか。僕もトイレは近くなりますけど、漏らした記憶はないかなあ。それはオネショ?」

キン:「オネショ。嫁にはオムツしろっていわますね。だいたいする瞬間に目が覚めるんですよね。なんなんですかねー、あれ」

玉置:「知らないですよ」

キン:「でもうちの親戚にずっとオネショしていたのが3人くらいいて、大きくなってもオネショしちゃう人の脳は、それが機能のなにかに関係しているのか、みんな優秀なんですよ。国立大学の医学部教授とか」

玉置:「へー。オネショをする人が将来えらくなるって、なんだか夢のある話ですね。僕もオネショしたら、もっと文章がうまくなるかなー。でもとりあえずトイレいってきます」
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
帰りにキムチやらなんやらを買って、結局ハシゴ酒へ。
ということで、オネショは今のところしていないのだが、オネショをしても問題のない場所と状態と心構えをつくり、どうにか一度くらいはしてみたいような気もするような、しないような。

目覚めと共に訪れる罪悪感と開放感のせめぎあいは、きっとぼんやりしっぱなしの脳を活性化させてくれることだろう。一種の走馬灯が見られそうだ。

うん、2015年は趣味のおねしょブームがくるかもしれない。いや、どうかなー。
日本にハラミを広めた焼肉屋東京苑
厨房に立つ三代目とその奥さん
エリア:上野のコリアンタウン
店名:東京苑
形態:焼肉屋
営業時間:11:30~23:30
定休日:無休
住所:東京都台東区東上野2-15-7
アクセス:御徒町駅・仲御徒町駅 徒歩7分
電話: 03-3835-0488